俗に「オビチョ」と言われる皮膚疾患で、水疱瘡ウイルスで水痘・帯状疱疹ウイルスから発症しますが、このウイルスは子供の時に水疱瘡に感染し治癒した後も、三叉神経・顔面神経又は脊髄神経後根の神経節に潜伏しています。宿主の免疫機能及び抵抗力が落ちたときに神経節内で増殖し、知覚神経を逆行して皮膚感染をきたし、紅班、水ぶくれ、膿庖、ただれ、潰瘍それに痂皮を神経支配領域に沿って形成します。通常は片側性に起こり、約１ヶ月でかさぶたが取れて治ります。
　好発部位は胸部、腰部で、時に上下肢、顔、頭部および外陰部に生ずることがあります。顔や頭の帯状疱疹は脳脊髄膜炎を引き起こすことがあるので注意を要します。三十代と五十・六十歳代に多く見られ、年齢が高いほど治りが遅く、帯状疱疹後神経痛といった強い痛みを後遺症として残すこともあります。水泡内にはたくさんのウイルスが入っていますので、これを介して初期には赤ちゃんや妊婦、それに水泡をやっていない人に感染することがありますが、普通の大人は子供の時水疱瘡をやって免疫ができているのでうつることはありません。治療は栄養をつけ、安静を計り体力をつけることが基本ですが、ゾビラックス、バルトレックス等の抗ウイルス剤を早期に内服することも大切です。重症の際はゾビラックス注やアラセナA注といった抗ウイルス剤およびノイロトロピン注といった鎮痛剤の点滴が必要になる場合もあります。皮膚疹は、抗ウイルス薬のアラセナA軟膏のほか、抗生物質製剤のゲンタシン軟膏および抗潰瘍製剤のリフラップ軟膏などを用います。
　神経痛の強い場合、所属神経節に麻酔薬を注入する神経ブロックを行うと有効なこともあります。
　悪性疾患ではありませんので、まずは体力をつけて予防することが大切です。

　高脂血症とは血液中のコレステロールや中性脂肪(トリグリセライド)が異常に高くなった状態を言います。高脂血症が続くと血管の動脈硬化をきたし、心臓では狭心症、心筋梗塞、脳では脳梗塞、脳出血それに眼では眼底出血、白内障など重篤な事態を引き起こすことがあります。血液検査でコレステロールが200mg/dl以下、中性脂肪値150mg/dlが望ましい値です。
　治療における食事療法では肥満があれば減量して標準体重に戻すことが大切です。脂肪摂取量は総エネルギー量の30％以下とし、飽和脂肪酸の多い獣肉は控え、むしろ鶏肉、魚をとりましょう。特にコレステロールの多いタラコ、レバー、うなぎ、卵それにバター、チーズ、ケーキなどは制限し、1日のコレステロール量を300mg以下としたらよいです。1日の総エネルギー量は1500〜2000kcalと考えたらよいかと思います。運動療法は特にグリセライド血症に有効で、散歩を含め適度な運動はできれば毎日行うと良いです。さらに薬物療法が必要な場合は医者の処方を受けることとしましょう。
　生活習慣での留意点を列挙します。食べすぎ、太りすぎには注意し、コレステロールの多いもの、甘いもの、それにアルコールはほどほどにし、野菜、果物といったビタミン、鉱物を含む食物繊維は沢山とりましょう。タバコはいけません。食事はゆっくり規則正しくとり、かつ毎日体をよく動かすことが高脂血症予防の秘訣かと思います。
　

　すい臓がんは近年増加傾向にあり、我国における年間死亡者数は約2万人と全がん中の数％を占めています。
　すい臓は体の背側にありますので、すい臓がんが発見されるのは比較的進行してからのことが多く、早期の根治手術可能ながんは焼く20％と少なく、根治手術の不可能ながんが約半数を占める難しい病気であります。手術後の5年生存率も組織学的に予後の悪い管状腺がんで約10％前後、予後の良い嚢胞腺がんでも約50％と、いずれにしても消化器がんでは予後不良のものが多いようです。症状はすい臓の右側、即ちすい頭部がんでは黄疸、心窩部痛それに体重減少などが見られ、すい臓の左側、即ちすい体尾部がんでは背部痛、体重減少、腫瘤触知などが見られます。これに加え、食欲不振、全身倦怠感、嘔気、腹満及び下痢、便秘などもみられます。診断は肝障害、閉塞性黄疸、糖尿病、すいアミラーゼとリパーゼの上昇それに腫瘍マーカー(ca19-9,SPan-1,DUPAN-2)などの陽性反応などを参考にします。画像診断では経皮経肝胆道造影(PTC)、内視鏡的逆行性胆管すい管造影(ERCP)、血管造影、超音波、CT、MRIそれにシンチグラムなどを行い、組織診断を超音波、内視鏡又は直接穿刺によって行い確定します。治療はすい頭部がんではすい臓十二指腸切除を、そしてすい体部がんではすい臓尾部の切除を行います。根治手術不能のときは内外胆汁瘻造設、バイパス術及び胆管ステント挿入などを試みます。その他、放射線照射、化学療法それに免疫療法を補助療法として併用します。
　いずれにしましても、なかなか難しい病気ですので、日頃から検診や病院での診察を受けつつ、ご自身の健康管理をなさることが大切かと思います。

　心筋梗塞は、心臓の栄養血管である冠状動脈が粥状硬化をきたし、ここに血の塊、血栓が詰まって動脈血流を止め、その血管の灌流領域の心筋が壊死を生じて起こるのです。
　突然、肋骨の裏付近に強い痛みを訴え、苦しくて冷や汗をかき、時に死の恐怖を感ずる程の不安感を覚えます。強い鎮痛剤、モルヒネのような麻薬を使わないと治らないこともあります。その他、不整脈、脱力感、血圧低下、乏尿を伴い、時に失神することもあります。診断は心電図でQ波の発生、T波の逆転などが見られますが、不整脈や頻拍症それに心室細動といった怖い所見を呈することもあります。他に心エコーとか心臓カテーテル検査も冠動脈の狭窄度を精密に測ることができます。
　治療はニトログリセリン舌下の他に、モルヒネ注射等の麻薬による鎮痛が必要になることが多いです。絶対安静と酸素吸入も不可欠で、設備が揃っている施設では冠動脈造影後、血栓溶解剤を直接注入し、さらに風船療法といった冠動脈拡張術、ステント留置術を追加することもあります。又、待期的には大動脈ー冠状動脈バイパス術が必要になることもあるのです。
　予防で最も大切なのは食事で、塩分、コレステロール及び尿酸を下げるように工夫し、動物性脂肪やレバー、タラコ、ベーコンといったプリン体の多い食事は控えましょう。過労、喫煙、肥満それにストレスを避け、毎日適度な運動をすることがやはり大切です。

　加齢も含め色々な原因で下部食道の括約筋が緩くなって、胃液および胃内容物が胃から食道に逆流し、食道粘膜がただれてしまう変化を逆流性食道炎といいます。喉がいがいが・ひりひりする、やけるような胸やけ、胸部狭窄感、しつこい咳・げっぷ、腹部膨満感及び心窩部痛といった症状を訴えます。
　予防としては暴飲暴食を避ける、フライ・天ぷらといった脂肪性食品、ケーキやあんこ菓子のような甘いもの、それにパイナップル・唐辛子といった刺激性食品を控え、アルコール及び喫煙を禁ずることが大切です。それに、ゆっくり食事を摂り、就寝前の食事は避けることも必要です。食後すぐに横にならない、ベルトやコルセットなどでお腹を強く締めない、肥満や便秘に注意し、眠るときは上半身を少し起こすことも大事です。
　どうしても症状の改善をみない時は薬を使います。H2ブロッカーやPPIといった胃液分泌抑制剤、ガナトン、ガスモチンなどの消化管蠕動運動改善薬、それにアシドレス、サンメール、アルサルミン細粒のような食道粘膜保護剤で食道粘膜のびらんや潰瘍形成をブロックする必要があります。
　この疾病も飽食、肥満、運動不足、それにストレスといった現在生活に生ずる文明病の1つかと思われます。

　一般に40歳から60歳台に多くみられる悪性の肺腫瘍で、最近は死亡率で胃がんを上回っています。
　肺がんは組織学的に小細胞がんと非小細胞がんに分類されます。約9割は非小細胞がんで、大体腺がん50％、扁平上皮がん35％、大細胞がん6％ですが、進行がんが多く予後はあまりよくありません。咳、喀痰及び血痰、発熱、胸痛それに呼吸困難を訴えますが、診断は胸部レントゲン写真、断層写真、胸部CT撮影、気管支造影、気管支ファイバー検査に加えて喀痰の細胞診、肺組織の生検による組織診断が有力な手段と言えましょう。リンパ節、頭部、骨及び肝臓に転移しやすく、シンチグラム、頭部MRI、血管造影、全身のCT及びPET、胸部超音波検査、それにSCCやNSEといった腫瘍マーカーのチェックも大切な診断法です。
　治療は、小細胞がんには主にシスプラチンやカルボプラチンを基調とした多剤併用化学療法を行い、これに加えて放射線照射を追加しますが、予後は不良です。非小細胞がんは、早期発見に努め、可能ならまず胸腔鏡による肺切除術を行います。進行し転移のある場合は、やはりリシスプラチン、ジェムザールやタキソールなどの抗がん剤を用いた化学療法と放射線照射の併用療法が必要となります。
　肺がんの原因は明らかではありませんが、喫煙と大気汚染を除外しては考えられません。各人の禁煙への努力と啓蒙、ならびに環境汚染の改善は是非とも必要なことです。さらに、最近注目を浴びているアスベストと悪性中皮腫との問題も、肺がんの一原因として考えなくてはなりません。

　乳がんは、乳腺組織から発生する悪性腫瘍で、好発年齢は40〜50歳代、主訴は大部分が腫瘤触知です。触知する腫瘤は硬く、境界不鮮明で無痛性であることが多く、皮膚に陥凹所見(デレ)をみ、又乳房を挙上したり、摘んだりしたときエクボ症状(ディンプリング)をみることがあります。他に乳頭からの異常分泌、乳頭びらん、疼痛及び腋窩リンパ筋腫大などがみられます。最近はマンモグラフィを併用した乳がん検診の普及で、早期がんの増加と診断率の向上が認められております。
　診断はマンモグラフィの他に超音波検査、CT検査、最終的には細胞診または針生検で確定診断を行います。進行がんでは肺、肝臓及び骨への転移もみられるので、腫瘍マーカーのほかにヘリカルCT、MRI、PETそれにシンチグラムなどの検索も必要になります。
　治療は手術、放射線照射、化学療法、それにホルモン療法をそれぞれ集学的に行うことが最近の傾向のようです。手術で以前行っていた拡大手術の胸筋合併乳房切断術は、胸筋への浸潤がない限り採用せず、乳房温存手術や胸壁温存乳房切除術といった縮小手術を行うことが多くなってきました。リンパ節転移、組織型、脈管浸潤、腫瘍径及びエストロゲン受容体が予後因子をなりますが、これらにより病期を判定し、放射線療法、化学療法ならびにホルモン療法を追加併用します。化学療法にはエンドキサン、アドリアシン、5-FU及びタキソール注を用いた注射療法、再発がんではHER2過剰発現がみられたらハーセプチン注を点滴静注します。内服薬では5-FUやドキシフルリジンなどを用います。ホルモン療法はエストロゲンまたはプロゲステロン受容体陽性の乳がんにのみ有効で、ER陽性で閉経前ならリュープリン注射を月1回、2年間行い、かつ抗エストロゲン薬(フェアストン)を5年間内服します。他にアリミデックスやヒスロンHなどを用いることもあります。
　いずれにしましても、乳がんは早期に発見に、速やかな治療を開始することが大切です。

　イルカ、クジラ、それにアザラシなどの海に住む哺乳動物を最終宿主とする小型の回虫：アニサキスの虫卵は、海中で発育、浮遊しオキアミに摂食されます。このオキアミを食べる鮭、増す、サバ、イワシ、タラ、スルメイカそれにエビなどに寄生して、アニサキスは第3期幼虫になります。人がこれらの魚を生で食べると、黄白色の直径5mmほどで長さ1〜2cmのアニサキス幼虫が人の消化管内、特に胃壁に迷入して、その周囲に急性の炎症反応と強烈な痛みを起こします。これを胃アニサキス症といいます。 駿河湾に面したわが町静岡は、たくさんの美味しい魚を生で食べられる幸せはありますが、時にこのような虫に遭遇することがあるので気をつけなくてはいけません。刺身、生魚のほかに寿司、しめ鯖やバッテラなどでも虫体は生きています。口から入ったアニサキス幼虫は、胃に60％、小腸に30〜40％の割合で上部消化管に移行し、頭部を消化管粘膜に突き刺すように侵入させ、その周囲に細胞浸潤を伴う炎症を発症させ、強い疼痛を引き起こします。胃アニサキス症の場合、幼虫のついた魚類を食べて2〜6時間後に腹痛、悪心、嘔吐及び腹部膨満を訴えますので、直ちに内視鏡検査をして虫体を1匹ずつ摘出除去することが大切です。駆虫剤を使うこともありますが、あまり効果は期待できず、外科的摘出を待つより他にありません。
　予防としては、疑わしい魚などは生で食べないこと、食べるときは虫がいないかよく見て食べること、又幼虫は60℃・数秒で死滅するので、加熱処理して食べること。それから-20度。数時間でも死滅するので、一度冷凍したものを解凍して食べるなどが安全の切り札です。

ヘリコバクター・ピロリは胃粘膜に生息するグラム陰性桿菌です。1983年にオーストラリアのワレンが染色に、又マーシャルが培養に成功しました。このピロリ菌は強いウレアーゼ活性があり、このウレアーゼが胃内の尿素を分解してアンモニアを生産し、胃粘膜障害を伴う攻撃因子となって、ビラン性胃炎や胃・十二指腸潰瘍を発生させるのです。胃・十二指腸潰瘍の80%以上にピロリ菌が存在しています。診断は内視鏡を用いた鏡検法、培養法、迅速ウレアーゼ法、それに内視鏡を用いない方法として尿素呼吸法、血清抗体法、さらに便坑原測定法があります。治療としてのピロリ菌除菌法はクラリスロマイツン、アモキシシリンの二つの抗生物質とプロトンポンプインヒビターといった抗潰瘍剤を用いた併用治療法を七日間行います。以後はＨ2ブロッカーなどの胃制酸剤等を続けます。除菌法の副作用として下痢、軟便、味覚異常それに発疹が時にみられます。約90%の除菌率が認められますが、除菌後に再発することも稀にみられます。再度除菌を計るか、Ｈ2ブロッカー、プロトンポンプインヒビターか、その他の原因（鎮痛剤の長期投与等）があれば、その治療を行います。
いずれにしましても、現在ではヘリコバクター・ピロリの除菌法が胃・十二指腸潰瘍の治療の主流を成しております。胃癌との関連も示唆されていることは、さらに興味深いことです。

胃　潰　瘍